八川の家02/dar okuizumo

施主は奥出雲で空き家となって久しい昭和初期の理髪店と出会いました。
この素朴な民家は職人の手仕事が良く残っていました。木製建具、真壁の造作。小舞下地の土壁、現場研ぎ出しの流しやタイル、理髪店だった客席は左官と大工によるくりがたや細やかな造作の設えをよく残しています。 古民家が身のまわりにある身近な材料(土、砂利、竹、地松、杉など)でつくられていたのに習い、改変する部分については新建材(商品としてつくられたビニールクロス等)ではなく、現代において誰でも手に入れることのできる身近な工業製品(トタンやコンクリートブロック、構造用合板など)を用いました。
施主の構想を翻訳して、この建物の持っている歴史、その時間の積み重ねとの折り合いをつける、そんな仕事だったような気がします。
施主は手仕事が好きで、様々なクラフト作家の作品を所有しています。施主は住み、暮らす為にこの家を譲り受けましたが、この家は施主の好きなものを置く為に、そうしたものに囲まれて暮らす為に用意された場所であると後から気づきました。
この家は、かつて理髪店がそうであったように、ギャラリーとしてまちに開かれた場にもなるようです。



用途:住宅/ギャラリー
構造規模:木造2階建
2020年6月
場所:島根県奥出雲町




土間スペースは玄関であり、応接室であり、ダイニングであり、そしてギャラリーでもあります。





内法(鴨居)より上部は天井を含め既存を残しています。
下がり壁は元々荒壁や中塗り土だった部分を施主自ら漆喰を塗りました。 左手に既存箱階段、正面には新しく付加された壁が見えます。







壁や床に新しい要素が加わっても残された古民家の持つ架構や造作の持つ区切りや連続性が小さな家の内部に独特の奥行きを生んでいるように見えます。







ギャラリー(座敷)の床は畳を撤去した荒床に施主による塗装仕上。敷居はそのまま残しています。







有孔ボードの塗装や棚板の設置、白いローテーブルは施主の手仕事です。







台所の壁にトップライトからの光が落ちます。
既存の天井と壁は撤去しました。現れた荒壁に施主がしっくいを塗りました。






前面道路から後ろ庭へ抜ける通り土間にトイレ、洗面脱衣、シャワールームといった水廻りが集まりました。
この大胆なプランは当初から施主が構想していたものです。












通りに面する、かつての理髪店の店舗部分です。
設計依頼から竣工まで2年を要しましたが、この店舗にもういちど灯りをともすことが施主との共通の心の支えになりました。












理髪店であったこの家は地域の皆さんにとっても記憶を共有する建築物のひとつです。
解体されずにこうしてまた灯りがともりました。






新しく設けられた入り口。
2階外壁はガルバリウム鋼板素地小波板張り。1階外壁はモルタル塗り。






工事中のスナップ写真。
(撮影 宇田川孝浩)






工事中のスナップ写真。
(撮影 宇田川孝浩)


写真撮影  岡田泰治(特記あるものを除く)